黒姫高原を歩く

 自然豊かな森を湛えた北信濃・北信五岳のひとつ黒姫山。その裾野、エプロン状に広がる黒姫高原は、季節の移ろいを
最も感じることができるアルマナックにとって身近な高原であり、生活フィールドの一部となっている。
春から秋、刻一刻と表情を変えるその自然の営みを日々見つけ、森の息吹を身体いっぱいに受ける事で得られる不思議な
エネルギーを味わいに出かけてみよう。

 暖かな陽気の4月末…朝食後、穏やかに日差しが森を照らす頃、のんびりと黒姫山へ向かって坂道を登り始める。
(いきなりのこの坂は結構きつい…)  スキー場入り口に到着すると、まずはその迫りくる山の姿に見入る。春浅い頃には、
まだ白い頂が朝日に照らされまぶしく輝いている。 雪解けとともにその姿は徐々に緑を濃くし、若葉の薄黄緑とちらほらと
見える山桜の薄紅が楚々としたあでやかさを秘めて、裾野はまさしくお姫様の衣となる。 緑の野になった広いスキー場を
横目に、遊歩道を童話館へ向けて歩を進める。 眼下には野尻湖が春霞の中ほのかに浮かび、周辺の白い頂もかすんで
見える。信濃町ののどかな風景、鳥たちのさえずり、身体を包む空気そのものが黄緑色に見えるから不思議だ。
 柔らかな草を踏みしめながら歩くと、やがて童話館が近づいてくる。ここには、「モモ」「はてしない物語」などの作者として
スキー場から見る黒姫童話館知られるミヒャエル・エンデ(1925〜1995)の資料が世界で一番多く展示されている。
 また、2004年から新しく松谷みよ子の展示室も作られ、国内外の児童文学・絵本作家たち
の多くを知ることができる。  しかし、まずは森へと歩を進める事にする。童話館の前を通り
過ぎ、右手へ進むと遊歩道の看板が目に入る。 ここから御鹿池を巡るのどかなコースへと
入ることができる。車止めを脇から抜けて進むと、小さなせせらぎを越えて、右手に湿地帯が
広がる。 ここはリュウキンカとコブシの名所だ。GW前後タイミングがよければ足元の黄色と、
青い空に手を伸ばすかのように白い花を一面つけた木々が目に飛び込んでくる。
 最近では写真や写生のメッカであり、ひっそりと楽しむのはちょっと難しくなってきた。
特に、コブシが群生するこのような湿地は日本でも数少なく、研究者の対象にもなるほどだという。あたりまえにこの景色を
見てきた私たちには意外だったが、コブシってあまり群生しないものらしい。リュウキンカとこぶしの花 リュウキンカの湿地を抜ける遊歩道は整備
されていて、心地よく森の中へと入っていける。 あちらこちらに、春の花々が咲き誇り、これが
日々、変化していくのがたまらなく面白い。(高原の花たちでも詳しく見ることができる)
 湿地からそれて、左手へ入ると御鹿池が目の前に広がる。一周わずか500mほどだろうか、
水面に移る山の姿を眺め、周りに咲く花たちを眺め、奥のせせらぎで冷たい雪解け水に触れ、
少し汗ばむくらいになったら、あずまやで一休み… 人気がなければ、水面に水鳥たちが群れて
いることもあり、じっとしていることで自分が自然の一部になったような気分にさえなってくる。御鹿池
 一度ここで、アオサギの捕食シーンに出会ったことがある。
水辺にすっくと立ち止まり、身じろぎ一つしない。物の本によると
こうして木に見せかけ、餌が安心してよってくるのを待つのだ
とか…しばらくはまるで静止画を見ているかのようだった。
そう思った瞬間、目にもとまらぬ速さで長い首を水中に突っ込ん
だかと思うと一気に飛び立った。 そのとき口には魚らしき物がくわえられていた。
思わず、姿が見えなくなるまでぽかんとそれを見上げてしまっていた。 腰を上げて、池の水
が用水路として使われる引き込み口に沿って藪を分け入り、斜面を降りる。 このあたりは
ウルシも多いのでちょっと注意が必要。 やがて表登山道につながる砂利道へと出る。
右へ行けば登山道に当たり、左へ行けば童話館へ戻ることができる。 ここは戻ることにして左へ進む。すると道の下をくぐる
形で、先ほどの用水路の水が滝となって流れているのと交差する。私たちは御鹿滝と呼んでいるが、御鹿池から見る妙高山人口滝なので名称は
はっきりしない。雪解け水で水量の多い春は小さいながらも圧巻の様相を呈しており、
マイナスイオンたっぷり!の感がある。御鹿滝 さらに進み、童話館へ戻ることにする。
入場料600円(わくわくチケットを使えば500円になる)。
私は町民パスを1500円で毎年購入する。結構便利だ。
展示室をひとしきり眺めた後、明るいガラス張りの絵本室へ…
子供も大人もゆっくりと本を読むことができる空間があり、
私はここで小一時間本を読むのがとても好きだ。頁から目を
上げると、雄大な高原を広げた黒姫山を見ることができ、
ゆっくりと流れる雲がスローモーションのように、時の流れ
そのものを遅らせているかのような錯覚に陥る。休日には、クラウンショーや人形劇などイベントも
数多く行われ、家族で出かけてくるお客様も多い。 裏庭には、黒姫にあった「いわさきちひろ邸」が
移築されており、公開されている。 ここで晩年最後の作品となった「赤いろうそくと人魚」の挿絵も
執筆されたと言う。この作品の風景には、日本海柏崎あたりの海岸が多く描かれているらしい。
また、隣接している童話の森ギャラリーは地元出身の洋画家「松木重雄氏」の寄贈画が常設展示
され、その他にもイベント展示が年数回行われる。入場には童話館との共通チケット(800円)を購入しておくとお得だ。
 ゆっくりとした時間の流れを楽しんだ後は、元の高原遊歩道をたどるか、または童話館裏からスキー場下への道をたどる。
(季節によってはホウノキの花が見られるのでここを通ることが多い)、ちょっぴり急ぐときは前山ゲレンデを直下する。
(早い時期だと雪解けでぐじょぐじょだったりもするが…)      約3時間ほどの「童話の森の住人」になれるお散歩コースだ。

Almanac Top Pageへ      ALMANAC(アルマナック) 長野県上水内郡信濃町野尻2030-13   026-255-5561
アルマナックから黒姫高原へは…徒歩で約5分!!
黒姫童話館やリュウキンカの咲く御鹿池へは無料シャトルバスで約10分